かつては、定年退職後に1日の空白もなく引き続き同じ事業所に再雇用され、その時点で給与が大幅に下がった場合、被保険者資格は継続しているため、変更後3ヵ月経過後に一定の要件を満たすと、4ヵ月目に標準報酬月額が随時改定(月額変更)されていた。
このため、再雇用時に給与が下がったにも係わらず、3ヵ月間は労使ともに、従前の高い給与に応じた保険料を負担しなければならなかった。
また、在職老齢年金の支給停止額も、実態に即したものとなっていないなどの問題が指摘されていた。
※一定の要件
@固定的賃金の変動または給与体系の変更があったとき
A変動月以降に継続した3ヵ月間の報酬の平均額と、現在の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じたとき
B変動月以降の継続した3ヵ月間の支払基礎日数がすべて17日以上あるとき
平成8年5月からは、労使の不都合を解消するため、特別支給の老齢厚生年金を受ける権利のある被保険者が、定年による退職後に継続して同じ会社に再雇用される場合に限っては、事業主との使用関係がいったん中断したものとみなし、被保険者資格喪失届と被保険者資格取得届を同時に提出(同日得喪)できるよう見直された。
これにより、3ヵ月の経過を待たずに再雇用された月から新たな標準報酬月額に基づく保険料が徴収され、労使ともに保険料負担が軽減される。
ただし、定年以外の理由で退職後継続再雇用された場合は、随時改定の取扱いとなっていた。
平成22年9月からは、高齢者の雇用の安定の確保を目的に、定年の場合だけでなく、特別支給の老齢厚生年金を受ける権利のある被保険者が退職後継続雇用された場合は、同日得喪の取扱いとして、すべて再雇用月から標準報酬月額が変更されることになった。
定年に達する前に退職して継続再雇用された人や、定年制のない会社で継続再雇用された人が新たな対象者となった。
同日得喪の手続きは、事業主が資格喪失届と資格取得届を同時に提出し、退職して新たな雇用契約を結んだことを明らかにできる書類(就業規則の写し、再雇用時の雇用契約書、事業主の証明等)を添付する。厚生年金基金や健康保険組合に加入していれば、同様の手続きを行う。
平成25年4月からは、特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢が61歳に引き上がることに合わせ、同日得喪により再雇用後の給与に応じた標準報酬月額に決定できる仕組みの対象者が、60歳以降に退職後継続雇用される人すべてに拡大されることになった。
このため、退職後継続再雇用された特別支給の老齢厚生年金を受ける権利がない人や、65歳以上の人(70歳以上の健康保険のみ加入者も含む)も新たに同日得喪の対象となる。
この改正で、60歳の年金空白期間に給与が大幅に引き下がったものの、社会保険料は高いままという最悪の事態は避けられることになった。 |